イントロダクション

共に生きること、それは愛の始まり

社会派監督が描く希望の物語

 

2015年のバンコク世界映画祭が昨年度の『かぐや姫の物語』(高畑勲監督)に続き、日本から唯一の正式出品として選んだのは、厳しい現実からも目を背けず、その先にあるわずかな希望を描いた愛の物語だった。
『scope』『萌』と数々の社会的問題作を発表してきた卜部敦史監督。性犯罪加害者と更生保護。裁判員と死刑制度。社会の歪みで揺れる弱者たちを、その徹底した世界観と独特の温かい視点で描き続けてきた監督が次に見据えたのは、ある親子の静かで厳かな老境、そして愛の行く末だった。

 

 

 

 

 

 

 

アジアが泣いた!

観客は親子の物語に自らを重ね、

そして希望を見つけ出す

 

父を介護する主人公ヨウコを演じるのは黒澤明、熊井啓、大林宣彦ら名だたる巨匠の作品に出演し、今もなお日本映画界に欠かせない女優、根岸季衣。疲弊していく女性を演じるにあたり6キロの減量に臨み、社会から孤立していくヨウコという役柄に自身を近付けるため、撮影中は監督以外のスタッフ・キャストと会話を一切せずに距離を置くという徹底した追い込み方で役作りに挑んだ。上映中、唾を飲むことさえためらわれる、その静かで内なる演技は観る者の心も鷲掴みにし、バンコク世界映画祭での公式上映時には、主人公の人生に自身の人生を重ね、涙する観客が多数存在した。

また本作はエンディングを含め映画音楽を一切排し、セリフも必要最低限のみで、親子のコミュニケーションはまさにタイトル通り「まなざし」を持って描かれるという挑戦的な作り方が成されている。それは監督が実際に現役介護福祉士として働きながら、そこで見たこと、聞いたこと、触れたことを経験として、厳しい現実を見据えながらも登場人物たちを温かい「まなざし」で見つめ、作品として昇華させている所以でもある。

本作で描かれる家族の絆、そして人を受け入れたことから始まる小さな希望。観る者の魂を揺さぶる衝撃のラストシーンに誰もが感嘆するだろう。

 

 

 

 

 

 

 

誰にも訪れる「老い」と「死」を

温かく受け入れるために

 

介護職員として日々慎ましく暮らしているヨウコ。平穏な日々はある日、服役していた父の出所により暗転する。頼れる人もおらず独り身の生活をしていたヨウコは、寝たきりになった父を自宅へ受け入れ、献身的に介護する。繰り返すその日々の営みを、監督は静寂と構図を崩すことなく一つ一つ丹念に追っていく。

人間なら誰しもに訪れる「老い」と「死」。その淵に立つ親子の姿は、観る者すべてにいつか来る“その日”の存在を否応なく突きつける。

しかし、そこで描かれているのは決して絶望ではない。親子であるがゆえの憎しみ、それに伴い決して切り離すことの出来ない無償の愛。そして迎える光溢れるラストシーン。相容れることの無かった父と娘の「まなざし」が重なるとき、それは観客の胸にじんわりと残り続ける忘れられない体験になるだろう。